本研究の目的は、地球環境のモニタリングに不可欠な衛星観測データを有効活用するために、衛星画像データベースの内容検索手法を追求することにある。本研究ではその基礎となるモデルとして、衛星画像検索に重要な画像内容を画素単位レベルから画像の意味レベルまでの階層構造に分割して表現する「画像内容素の階層モデル」という枠組を用いた。今年度は研究の2年目かつ最終年度であるため、衛星画像データベースの実現に注力することを課題とした。そこで、一般の衛星画像すべてを対象とするよりも特定の対象に集中して研究する方が良策であると考え、気象衛星画像中の台風を対象とする画像データベースに研究対象を絞りこむこととした。ここで台風の雲パターンに着目するのは、それが台風の勢力を衛星画像から推定するために重要な役割を果たす情報であるためである。この推定方法は、現在のところ気象専門家のパターン認識能力に依存しているのが実情であるが、本研究で台風画像データベースを実現できれば、専門家の判断を支援するためのツールとして有用な役割を果たすと期待できる。一方でこのシステムはパターン認識の実応用問題としても興味深い問題を多く含んでいる。本研究では台風画像データベースを構築するために、まず1997年に発生した27個の台風について、ひまわり衛星画像から切り出した台風画像を約6000枚収集し、各画像に中心気圧などの付加情報を関連づけた。次に、各台風画像の積乱雲領域のパターンに注目し、雲領域の配置を楕円形状分解しグラフ構造で表現することにより、過去の台風画像の例示画に対して、雲パターンの大きさや形状の類似した台風を検索可能とした。このシステムを用いて類似検索した画像から気象学的に有用な情報を抽出する研究や、スパイラル構造などの多様な形状をインデックスとした検索を実現する研究が、今後の課題になると考えている。
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