本研究は、作業の質の分類に人間の認知行動レベルをスキル、ルール、ナレッジの3段階に分類したラスムッセンの認知行動モデルを用いて、作業の質と認知負担の関係を明らかにすることを目的として行われた。 実験は繰返しによりルールにシフトするナレッジ課題を、被験者に一定試行時間間隔の基165試行(55分間)繰返し行わせた(KT)。さらに同一条件で165試行(55分間)行わせるとともに(RTa)、試行時間間隔のみを被験者ペースに変え、55分間繰返し行わせた(RTb)。これら3パターンの作業の処理時間、生体負担、自覚症状、内観報告を比較検討した。 実験の結果、KT-RTa間、KT-RTb間にはそれぞれRTに処理時間の短縮が見られ、認知負荷の軽減がなされていることが示唆された。この処理時間の短縮と内観報告からKT-RT間においてナレッジからルールへの認知行動レベルのシフト、即ち作業の質の変化が生じていることが確認された。しかしKT、RTa、RTb間には生体負担に統計的な有意差は見られなかった。このことから本課題におけるナレッジからルールへの作業の質の変化は生体負担の軽減をもたらさないことが示唆された。 ところで昨年度と本年度の結果を比較検討すると情報処理プロセスのみ異なるSTb(昨年度スキルレベル)-RTb間においてRTbの生体負担が大きく、認知負担の存在が改めて示唆された。しかし昨年度と本年度の結果から、同一作業内における作業者の認知行動レベルを基にした作業の質の変化に対しては、その認知負担は必ずしも軽減されるわけではないことが示唆された。また軽減される場合でも、その軽減はいらいら感のような他の心理的な負担に埋もれてしまう程度の小さいものに過ぎない可能性が示唆された。このことから同一作業内における作業の質の変化は、認知負担の軽減ではなく、認知負荷の軽減を目指したものである可能性が示唆された。
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