本研究では若年女性を対象として月経前期(黄体期)と月経後期(卵胞期)との間に精神作業遂行能および精神的負担感の差異が認められるか、また、作業の種類によって月経周期の影響の程度が異なるかについて検討した。さらに心電図データを収集することにより自律神経機能変動を評価した。被験者は正常月経周期(26〜35日)を有している健康な女子学生15名であった。月経周期は基礎体温および月経周期の自己申告により同定した。測定時期は黄体期が月経開始前5〜3日、卵胞期が月経開始後8〜10日に各1日ずつであり、2回の月経周期にわたって合計4回の測定を行った。作業として、実験開始時にコンピュータのディスプレイ上に4桁の乱数(3000〜5000の間)を呈示し、その数字から17を連続減算する暗算作業と、操作性を劣化させたマウスを用いてディスプレイ上に呈示された迷路状の軌道をトレースする疑似鏡映描写作業を各5分間ずつ実施した。作業遂行能の指標として、連続減算作業では作業量および正答率を、疑似鏡映描写作業では軌道上をトレースした距離を軌道から逸脱した回数で除した値を算出した。精神的負担感の指標として、NASA-TLX(NASA-Task Load Index)を各作業後に実施した。被験者15名中、実験期間中に月経周期が乱れた5名を除いた10名分のデータについて解析を行った。その結果、いずれの作業においても黄体期と卵胞期との間には作業遂行能および精神的負担感に有意差は認められなかった。心電図データから得られた心拍変動成分の解析結果からは、黄体期における交感神経活動優性化の傾向が窺われたが有意差には至らなかった。 平成11年度は上記実験期間中に欠損した女性被験者5名のデータを追加実験により補い、実験結果を再検討すると共に、男性被験者15名に対して同様の作業を負荷し、女性被験者の実験結果との比較を行う予定である。
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