本研究の結果、アルミナ中に注入された高濃度で注入された遷移金属イオンはas-implantedの状態で直径4nmから14nm程度の金属クラスターを生成すること、クラスターサイズはアニールによって制御可能であることを示した。また、原子の拡散挙動を調べた結果、酸化され易さの差が顕著に現れ、鉄の場合には酸化によって表面側への拡散が促進されるのに対して、銅の場合には照射欠陥の消滅とともに移動できなくなることが明らかになった。 さらに、注入イオンの存在状態に関して、鉄の場合には濃度が高い飛程付近では金属状態が支配的であり、濃度が低い分布の端の部分においては酸化されていることが明らかになった。このことより、クラスター生成に関与していない孤立元素が酸化状態にあることが示された。銅の場合には金属状態が存在すること、またCu^<2+>(CuO)が存在しないことが明らかになった。 注入層における電気伝導はイオンの分布の幅、照射種に関わらず飛程近傍の金属濃度で決定されることを示した上で、ニッケルを注入した試料に関してクラスター間の熱活性化トンネリングモデルを適用することにより、電気伝導測定からクラスターサイズについて見積もった結果、注入濃度に応じてクラスターサイズが変化し、非オーム性が増大することを示した。 酸化によって拡散が促進される鉄の場合には表面にアルミニウムを全く含まない酸化鉄の層を形成することが明らかになり、適当な照射量においてはアルミナ基板上にエピタキシャル成長することが明らかになった。 以上の結果より高濃度金属イオン注入と絶縁性セラミックスの組み合わせにおいては照射量、熱処理熱条件の選択によりクラスターサイズのコントロールが可能であること、非オーム的導電層や金属導電層の形成や連続的組成変化を持った表面酸化物層の形成が可能であることを示し、機能材料の作製手法として応用可能であることを示した。
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