ヘリウム3やキセノン129の高密度偏極は物理実験のみならず偏極した希ガスの医学利用にも有効である。偏極希ガスの原子当たりのMRI信号は従来使用されてきた人体組織中の陽子にくらべて小さな濃度で充分であり、より優れた分解能での診断が期待できる。MRIには人体に害のないキセノン原子やヘリウム3原子が適している。希ガスの高密度スビン偏極には、スピン交換を利用した光ポンビング方式が有効とされている。この方法では、蒸気状にしたアルカリ原子をレーザーを使用して光ポンピングさせ電子偏極させる。その電子偏極を目的とする原子へスピン交換により移行させるものである。本研究では、アルカリ原子にルビジウムを選択したため、ポンピングに必要な波長は795nmである。本研究では装置の小型化・高性能化のため、最大出力が約20Wの半導体レーザーを使用した。効率よくスピン交換を行なうには、効率よくアルカリ金属蒸気がポンピングされること、さらにスピン交換及び減偏極を防ぐために、キセノン原子のセル内での滞在時間を適切に設定することが必要である。本研究では、セル内壁面での原子の衝突を考慮した軌道計算プログラムを用いてセル中での滞在時間及び衝突回数の計算結果からセルの形状を決定した。これに基づいてパイレックスガラス製のテストセルを製作した。まず、レーザー光を円偏光に変換し効率よく交換セルに入射させるための光学系を構築し、セル入射窓へのレーザー光入射を確認した。さらに偏極水素原子ビーム用に開発した偏極度モニターを改造して、スピン交換後のキセノン偏極原子の偏極度及び原子密度測定に必要なパラメータの測定を行った。
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