研究概要 |
本研究は、ヒト培養細胞の細胞内情報伝達経路に作用点を持つ天然由来生物活性物質の発見、及びそれを探索分子として用いた情報伝達系の解析、から構成される。「ヒトT細胞におけるInterleukin-2遺伝子」及び「ヒト血管内皮細胞における血管内皮細胞増殖因子受容体遺伝子(Flt-1,KDR)」の発現を制御する情報伝達経路に対象を絞り、古来漢方において汎用されてきた生薬(約100種)についてスクリーニングを行った結果、いくつかの生薬エキスに上記の情報伝達を変調させる活性が見出された。そして、Interleukin-2遺伝子発現増強物質として、「黄連」からOxyberberine、「厚朴」からLinoleic acidの酸化物を単離同定した。また、Flt-1遺伝子について、発現増強物質として「〓葉」からポリアセチレン化合物を単離し、発現抑制物質として「辛夷」からFarnesol誘導体を同定した。さらに、OxyberberineをヒトT細胞株Jurkat細胞に投与した際に、Interleukin-2と共に発現量が変動する遺伝子群をディファレンシャルディスプレイ法により解析し、いくつかの発現変動遺伝子の存在を確認した。そのうちの一つは、呼吸鎖において機能するcytochrome coxidase複合体の形成に必須なタンパクとして同定されているCOX15をコードする遺伝子であることが明らかになった。今後、ディファレンシャルディスプレイ法による情報伝達ネットワークの解析に加え、アフィニティラベル法を応用して標的となる細胞内情報伝達因子の同定を進めていく予定である。
|