研究概要 |
本研究は、ヒト培養細胞の細胞内情報伝達経路に作用点を持つ天然由来生物活性物質の発見、及びそれを探索分子として用いた情報伝達系の解析、から構成される。「ヒトT細胞におけるInterleukin-2遺伝子」及び「ヒト血管内皮細胞における血管内皮細胞増殖因子受容体遺伝子(Flt-1,KDR)」の発現を制御する情報伝達経路に対象を絞り、古来漢方において汎用されてきた生薬(約100種)についてスクリーニングを行った結果、いくつかの生薬エキスに上記の情報伝達を変調させる活性が見出された。そして、Interleukin-2遺伝子発現増強物質として、10年度に単離したOxyberberine(黄連)、Linoleic acid酸化物(厚朴)に加え、新たにEugenol(丁子)及びFalcarinol(前胡)を単離同定した。また、Flt-1遺伝子について、発現増強物質として「艾葉」からポリアセチレン化合物を単離し、発現抑制物質として「辛夷」からFarnesol誘導体を同定した。さらに、先に大黄よりIL-2遺伝子発現増強物質として単離されていたアントラキノン類の細胞内標的を同定するため、アフィニティカラムと二次元電気泳動を組み合わせた新しい解析法を開発した。そして、Glyoxalase Iをその標的の一つとして同定した。Glyoxalase Iは解糖系の副産物として生成するMethylglyoxalを、グルタチオンの存在下に解毒する酵素であるため、この阻害によって蓄積するMethylglyoxalがIL-2遺伝子発現に影響を及ぼすものと推測された。また、アントラキノンの直接の標的はグルタチオンである可能性もあるため、現在さらに詳しい検討を進めている。
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