本研究では、(1)天然型核酸の鏡像異性体であるL核酸の合成と、(2)L核酸と天然型のタンパク質あるいは核酸との間の相互作用を定量的に評価することを目的としている。初年度となる平成16年度には、(1)に関して、出発原料にL-arabinoseを用いて行う合成を予定通り完了し、L-DNAのホスホロアミダイト体モノマーを得た。また(2)に関しては、得られたL-DNAモノマーを用い、鎖長10ヌクレオチドの二重鎖DNAの中央部分に鏡像異性体核酸を導入したL/Dキメラ型DNAを合成し、天然型DNAとの間で形成される二重鎖の熱力学的安定性を解析した。その結果、キメラ型二重鎖DNAは天然型二重鎖DNAと比較して、いずれもΔΔG°_<37>にして約3.0kcal mol^<-1>の不安定化を示すことが明らかとなった。また、この自由エネルギー変化をもたらす要因を検討したところ、キメラ型二重鎖DNAの形成はエントロピー的には天然型二重鎖DNA形成よりも有利であるが、それを上回るエンタルピーの損失(ΔΔH°にして20〜30kcal mol^<-1>)があることを明らかとすることができた。更に詳細を知るため、核酸塩基を除去したアベーシックヌクレオチドを導入したDNAを合成し、これを相補鎖として熱力学的安定性を求めた。その結果、天然型DNAでは水素結合の消失に伴い、二重鎖形成時のエンタルピー変化と自由エネルギー変化は大きく不安定化したが、L/Dキメラ型DNAではほとんど変化が見られなかった。以上より、鏡像異性体核酸は二重鎖中でスタックした構造を取り、全体構造は大きく変化させないが、水素結合を形成しないために二重鎖を不安定化させることを示すことができた。このことは、キメラ型二重鎖DNAの円偏光二色性が天然型二重鎖DNAとほとんど同じであるという結果とも対応する。これらの結果は、第25回核酸化学シンポジウム(平成10年9月)にて発表し、また主に熱力学的考察に関して日本化学会第76春季年会(平成11年3月)で発表する予定である。
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