研究概要 |
本課題では、β酸化経路で最も重要な初発および律速段階を触媒するアシルCoAデヒドロゲナーゼ(ACD)およびアシルCoAオキシダーゼ(ACO)における基質認識および活性化メカニズムの解明を目的としている。本年度は、中鎖アシル鎖を有するアシルCoAに対して選択的な触媒活性を示す中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(MCAD)を研究対象とし、アシル鎖3位を硫黄に換えた基質アナログ3-チアアシルCoAとの複合体の分光学的研究を行った。複合体形成に伴い観測される長波長の吸収(810nmに極大)は、3-チアアシル鎖長(炭素数7から20)に大きく依存し、長鎖になるに従いその強度を急激に減少させた。この吸収強度の鎖長依存性が、基質に対する酵素反応速度(Vmax)の鎖長依存性に酷似したパターンを示すことから、基質および基質アナログに対する認識、活性化メカニズムの共通性が示唆された。安定同位体13Cラベルされた基質アナログ・MCAD複合体のNMRスペクトルは、吸収スペクトルに観られる鎖長依存に関して、次のような分子論的解釈を与えた。(1)アニオン型、中性型の2種類の分子種が、結合型リガンドとして存在し、(2)その存在比率は、3-チアアシル鎖長により変化し、長鎖のアナログになるに従い中性型リガンドの比率を増加させること。また、共鳴ラマンスペクトルにおいてアニオン型リガンドとFADのラマンバンドが観測されることから、長波長の吸収は、αプロトン引き抜き反応を受けたアニオン型リガンドと酸化型FADとの間の電荷移動相互作用によることが明らかとなった。2種の結合型が存在することとその割合が鎖長依存するという事実およびpH変化に対する酵素複合体の挙動に基づいて、MCADの基質認識、活性化メカニズムに対する新規モデルを提唱した(Tamaokietal.,1999)。
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