研究概要 |
本課題では、脂肪酸β酸化系酵素であるアシルCoAデヒドロゲナーゼ(ミトコンドリア)およびアシルCoAオキシダーゼ(ペルオキシソーム)における基質認識および活性化メカニズムの解明を目的としている。これまでに、筆者らは基質アナログとして3-ケトアシルCoAおよび3-チアアシルCoAを用いた分光学的研究に基づいて、反応活性の高い基質(基質アナログ)との結合においては、基質は触媒反応が進行する"活性型"として酵素に結合し、一方、反応活性の低い基質に対しては、"非活性型"として結合することを示した(Tamaoki et al.,1999)。すなわち、基質特異性の本質は、活性型複合体のポピュレーションであり、活性型複合体の減少が反応活性の低下をもたらすものとして理解された。本年度は、基質の酵素結合様式の鎖長依存的変化をX線結晶構造解析により検証するという観点から、アシル鎖長C4-C21をもつ基質アナログ3-チアアシルCoAと中鎖アシルCoAデヒドロゲナーゼ(アシル鎖C6-C10に高活性)との一連の複合体の結晶化と構造解析を押し進めた。これまでに、鎖長の異なる2種のアナログ(アシル鎖C6およびC8)との複合体の結晶化に成功し、それぞれ2.4、2.3Aの分解能での立体構造を決定した。いずれのアナログにおいても、3-チアアシル鎖はフラビンとの相互作用部位で同一の立体配置をとることが明らかとなった。この配置は、アニオン型リガンド(電荷供与体)と酸化型フラビン(電荷受容体)の間の電荷移動相互作用をそれぞれの分子軌道の適切な重なりとして理解させ、複合体形成による長波長吸収(810nm)の出現と13C-NMRスペクトルに観測されたフラビンC4aの高磁場シフトを見事に説明した。さらに、3-チアアシルCoAに基質の遷移状態アナログとしての意義を与えた。
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