筋小胞体カルシウムポンプのN末端領域の機能について調べるため、カルシウムポンプのN末端から9番目のアミノ酸までの間に置換や欠失変異を導入したcDNAを作成し、発現ベクターp MT2に組み込んだ。この変異体をCOS-1細胞で発現させ、細胞を破砕したのちミクロソーム分画を調製した。ミクロソーム分画中のカルシウムポンプの発現量をウェスタンブロットにより定量したところ、欠失変異体の多くと置換変異体のうち4番目のアラニンをリジンかアスパラギン酸に変えたものおよび5番目のヒスチジンをリジンに変えたもので発現量が野生型と比較して著しく低下していた。しかしながらCOS-1細胞中での発現が悪い変異体でも、in vitroの発現系では野生型と変わらない発現が観察された。このことがらCOS-1細胞中で発現の悪い変異体は、翻訳後COS-1内の何らかの系で分解されていることが予想された。次にCOS-1で発現させた変異体のカルシウム輸送活性を測定した。COS-1細胞中で野生型と同等の発現を示す変異体では野生型と同等の活性を持っていた。cos-1細胞中での発現の悪い変異体では、N末端から3番目から6番目のアミノ酸のうちどれか一つを欠失させた変異体は野生型と同等の活性を持っていたが、その他の変異体はカルシウム輸送活性を喪失していた。以上の結果は、筋小胞体カルシウムポンプのN末端領域には活性に直接関与している残基は存在しないが、ポンプの高次構造の安定化に必須であることを示唆している。今後COS-1細胞中でのN末変異カルシウムポンプの挙動を追いかけることにより、N末部分の機能を明らかにしていく。
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