研究概要 |
蛋白質キナーゼの阻害剤として知られるDRB(5,6-dichloro-1-β-D-ribofuranosylbenzimidazole)は、mRNAの合成を司るRNAギリメラーゼII(poIII)の転写反応を特異的に阻害することが知られていたが、その阻害機構の分子レベルでの理解はなされていなかった。私のこれまでのDRBの転写阻害機構の解析から、poIIIの転写伸長反応を抑制するDSIF(ヒトSpt4&Spt5)と、アイオワ大学のD.Price博士の研究により伸長反応を促進するP-TEFbが同定されていた。本年度の研究により、私はP-TEFbがpoIIIの最大サブユニットのC-terminal domain(CTD)をリン酸化するとDSIFとpoIIIの結合が阻害され、その結果DSIFによるpoIIIの転写阻害が解除されることを発見した。よって、このことは今まで不明であったDRBの転写阻害機構の分子レベルでの解明がなされたことを意味する。さらに、DSIFのサブユニットの1つであるDSIFp160(ヒトSpt5)の欠失変異体を用いた解析から、1)ヒトSpt5とヒトSpt4の結合ドメインを明らかにした、2)ヒトSpt5とpoIIIとの結合ドメインを明らかにした、3)転写反応にDRB感受性を賦与する(DSIF活性)のに必要なヒトSpt5のドメインを明らかにした、4)DSIF活性を失ったヒトSpt5の変異体はinvitroおよびin vivoでドミナントネガティブ変異体として作用することを発見した。以上の結果より、ヒトSpt5とヒトSpt4複合体による転写制御機構の解明は、新たな転写伸長反応の制御段階の存在を明らかにしたといえる。
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