Rasに代表される低分子量G蛋白質は、細胞の増殖や分化など多彩な細胞機能を制御することが明らかになっている。Rasの標的蛋白質は、蛋白質リン酸化酵素RafやRalGDSをはじめ複数見出されており個々の標的蛋白質がそれぞれ固有の細胞内情報伝達系を介して細胞機能を制御することが明らかになりつつある。RalGDSは別種の低分子量G蛋白質Ralに対するGDP/GTP交換反応促進蛋白質である。Ralの生理機能は不明であったが、私共は、Rasのシグナルの一部がRalを介してRalGDSに伝えられることを見出した。RasのC末端側は脂質による翻訳後修飾を受けており、翻訳後修飾を受けたRasはRalGDSと強く結合し、RalGDSを細胞質から細胞膜へトランスロケーションさせる。本年度は、Rasと相同性が高くRalGDSとも結合しうる別種の低分子量G蛋白質Rapを用いてRasの中央部のエフェクター領域や特異的な翻訳後修飾を受けるC末端側をRapに組み替えたキメラ遺伝子を作製して動物細胞で発現させRalに対する活性化作用を検討した。その結果、RasとC末端がRas型になったキメラでのみRalが活性化されRalGDSの活性には、RasのC末端の構造が重要であることが明らかになった。また、RalGDSのC末端にRasのC末端側の20アミノ酸を付加すると、RalGDSの細胞内局在が細胞質からRalの存在する細胞膜へトランスロケーションし、活性化された。したがって、RalGDSの活性化の本質はRasの結合によるアロステリックな構造の変化ではなく、トランスロケーションであることが示唆された。
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