Rasのシグナルの一部は、低分子量G蛋白質Ralに対するGTP/GDP交換反応促進蛋白質RalGDSを介してRalに伝達される。RasとRalは脂質によるC末端の翻訳後修飾を介して細胞膜上に局在する。Rasと相同性の高いRap1はRalGDSと結合するがRalを活性化せず、Rasとは異なるC末端の翻訳後修飾を受けて核周囲に存在する。そこで、RalGDSを介したRalの活性化におけるRasやRalの翻訳後修飾の役割を解析するため、RasのN末端とRap1のC末端のキメラ(C1)と、Rap1のN末端とRasのC末端のキメラ(C4)を作製し、細胞内局在とRalの活性化作用を検討した。その結果、RasとC4は細胞膜に局在し、Rap1とC1は核周囲に局在した。RalGDSは単独では細胞質に発現するが、RasやC4と共発現すると細胞膜にトランスロケートし、Rap1やC1と共発現すると核周囲に認められた。RalGDSによるRalの活性化現象はRasまたはC4と共発現した場合に認められた。さらに、RalGDSのC末端にRasのC末端20アミノ酸を融合させたキメラは、Rasの非存在下で細胞膜にトランスロケートし、Ralを活性化した。したがって、RalGDSは、Rasと結合して細胞質から細胞膜上にトランスロケートしてRalを活性化することが明らかとなった。また、Ralの下流に存在するRalBP1やPOB1が、エンドサイトーシスの制御に関わる事や、細胞に翻訳後修飾を受けない変異型のRalを導入するとEGFレセプターのエンドサイトーシスが抑制される事を見出した。したがって、RalGDS/Ral/RalBP1/POB1を介するシグナル伝達経路は、EGFレセプターのエンドサイトーシスの制御に関わり、その際Ralの翻訳後修飾が重要であることが明らかとなった。
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