IV型グルタチオンペルオキシダーゼ(PHGPx)にはミトコンドリア型・非ミトコンドリア型PHGPxの二つのタイプが存在する。非ミトコンドリア型PHGPxを高発現させたラット好塩基球系癌細胞株(RBL2H3細胞)では親株に比べて核・細胞質にPHGPxが多く発現していた。平成10年度において、PHGPxが核における過酸化脂質反応であるシクロオキシゲナーゼ活性を抑制し、プロスタグランジンの産生抑制をすることを報告した。またPHGPxは核においてリポキシゲナーゼ活性を抑制すること、細胞内ヒドロペルオキシド量を低下させていることを報告した。本年度はPHGPxの転写調節因子としての新規機能を有するか否かについて、ディファレンシャルディスプレイ法を用いて、PHGPx高発現株において特異的に変動する遺伝子が存在するかについて検討した。その結果、未知遺伝子を含む3つの遺伝子が発現が低下し、4つの遺伝子に発現上昇が見られることを明らかにした。この遺伝子の塩基配列を決定したところ、誘導遺伝子は炎症性シグナルを抑制するMAFA、アルギニン代謝に関与するGAAT、抑制遺伝子の一つはウィルムス腫瘍の抑制遺伝子であるL10であることが明らかとなった。これらの遺伝子の発現にはこれまで全くレッドクスの調節が関与する報告がなかった。実際、過酸化水素や抗酸化物質添加により細胞のレドックスを変化させても遺伝子の発現変動は見られなかった。しかしPHGPx蛋白質の発現を上昇させるセレンの添加により、これらの遺伝子の発現パターンはPHGPx高発現株と同様な変化を示した。またMAFAのプロモーター活性を検討したところ、PHGPx高発現株において有意にプロモーター活性が亢進していた。以上の結果からPHGPxにはレッドクス変動を介さない経路で特定の遺伝子の発現を調節する全く新しい機能を有していること見いだした。
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