酸素適応はヒトを含めたすべての生物に認められる重要な現象であり、根粒菌のFixL-FixJタンパク質は酸素センサーとして最も理想的、かつ研究上有効なモデル分子である。また、FixL-FixJタンパク質が属する2成分系のセンサーキナーゼとレスポンスレギュレーターはさまざまな刺激、ストレスに応答するために生物が普遍的にもつ細胞内情報伝達系である。本研究では、リガンドとセンサーキナーゼの結合/解離によって引き起こされるキナーゼ活性の制御という普遍的メカニズムを分子レベルで明らかにすることを目標とし、以下の研究を行った。酸素解離型FixLでは自己リン酸化能を有し、酸素結合型ではキナーゼ活性が抑制されている。そこで、酸素センサータンパク質FixL-FixJによる情報伝達をin vo、invitroでモニターするレポーター系を大腸菌内構成した。ついで、PCR-ランダム変異導入法をこの系に適応して、酸素存在下でも情報伝達能が構成的にup-regulationした変異体を多数単離した。これらの変異体では自己リン酸化部位付近にアミノ酸置換変異が認められた。変異体タンパク質を精製し、FixJ-リン酸化活性を調べたところ、リガンド(酸素)結合の有無によらず高いリン酸化能をもっていた。酸素親和性測定の実験によりヘムを含むセンサー部位の機能は野生型と同じであることが判明し、研究目標とした分子内制御変異体の解析が成功したと結論した。 このように、本研究ではセンサー部位にヘムを含み、リガンド結合状態を人為的に調製し、検出できるという利点を活かし、センサー機能とリン酸化機能の共役、脱共役の分子機構を遺伝学的、生化学的に解析することにはじめて成功した。
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