研究概要 |
光合成膜内アンテナは光合成明反応の原動力である光エネルギーの獲得を行う色素-タンパク質複合体であり、この膜内アンテナの機能発現には光合成色素(クロロフィル類)の会合体形成が欠くことのできない要素である。膜内アンテナに存在するペプチド分子は色素会合体形成において重要なファクターとなっており、これがアンテナ機能発現に大きな役割を果たしている。紅色イオウ光合成細菌Chromatium(C.)tepidumの膜内アンテナ(LH1)は吸収極大位置が915nmと他の光合成細菌と比べ30nm長波長シフトしていることから、色素(バクテリオクロロフィル)-ペプチド分子間相互作用とアンテナ機能発現の相関を明らかにするものであると考えられる。まず、C.tepidum LH1が他の光合成細菌と同様、2本のポリペプチド(α,βサブユニット)から構成されていることを示し、次に、これら2つのサブユニットのアミノ酸配列を決定した。この結果、通常バクテリオクロロフィル近傍に存在するαサブユニットのアルギニン残基が欠失していることが分かり、このアルギニン残基がバクテリオクロロフィル近傍の電荷状態を制御することで色素会合体の吸収極大波長を変化させていることを明らかにした(PhotosynthesisRes.,58,193-202)。更に、種々の溶媒中におけるバクテリオクロロフィルの吸収および磁気円偏光二色性解析(B/D解析)を行い、バクテリオクロロフィルの電子構造を解明し、バクテリオクロロフィルの詳細な配位構造を明らかにした(Biochim.Biophys.Acta,in press)。今後はこれらの知見を基にペプチド分子の設計,溶液系の選択,バクテリオクロロフィル分子の創作を行い、それらを相互に変化させることで光合成膜内アンテナ内色素会合体における色素-ペプチド間,色素-色素間相互作用の微細構造解析を磁気円偏光二色性を用いて行い、アンテナ機能発現の色素会合要因を明らかにする。
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