本年度は、まず神経ステロイドを介した脳細胞間情報伝達機構を解明するために、大脳組織においてチトクロムP450scc等のステロイド合成酵素の分布を免疫染色法で明らかにした。その結果、チトクロムP450sccは神経細胞に局在することを解明した。即ち、これまでダリア細胞が産生していると信じられてきた神経ステロイドは、実は神経細胞が産生して神経細胞自身の情報伝達をオートクライン的に制御していることを解明した。しかし脳のステロイド合成量は極めて少ないため、神経ステロイド合成機構を直接調べるのは非常に困難である。そこでまず、副腎皮質細胞のステロイド合成に於けるCaの役割を解明し、神経ステロイド合成機構解明への導入とすることを試みた。その結果、cAMPの増加を伴わずにステロイドホルモン合成を促進するNPS-ACTH刺激に対する細胞内情報伝達をCaが担っていることを解明した。また、副腎皮質がストレスに応じて産生するステロイドの神経細胞に対する作用を検討した結果、ストレスステロイドはNMDA受容体に直接作用して細胞内Ca濃度を持続的に高く保つことで神経細胞死を引き起こすことを発見した。一方、Ca信号を介したグリア-神経間情報伝達機構の可視化解析では、ダリア細胞からの信号を選択的に捉えてS/N比の高い計測を行うために、ダリア細胞にCa感受性蛍光蛋白質Cameleonの遺伝子をリポソーム法で導入し、細胞質及び小胞体でのCa動態の測定に成功した。現在導入効率を飛躍的に高めるために、高力価レトロウイルスでのCameleon導入を試みている。
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