本研究の目的は、電子線回折パターンからの強度計算の精密化を実現することである。そのために、(1)電子線回折パターンの収集支援システムの開発と(2)電子線回折パターン解析用のプログラムの改良を行う予定である。そのうち本年度は(2)のプログラムの改良を主に行った。電子線回折のバックグランドをより定量的に扱うことができるプログラムをUNIX上で動くようにして、バクテリオロドプシンの二次元結晶に適用した。 バクテリオロドプシンは光駆動型のプロトンポンプで、光を受容するレチナルと膜貫通αヘリックス7本を持つ蛋白質部分とで構成されている。電子線回折パターンの解析から精度良く得られた構造因子の強度を用いて、この原子モデルを精密化し、二次元結晶中のバクテリオ口ドプシンとその周りを取り囲む脂質分子の構造を決定することができた。また、モデルから計算された構造因子の強度と実験データを比較することにより、バクテリオロドプシン中の電荷の分布が実験データに影響を与えていることがわかった。αヘリックスの主差中の水素結合から、NH基とCO基は分極していると考えられるが、そのCO基の分極を仮定すると実験データとより良く一致することを示すことができた。また、差フーリエ図のピークの位置から、いくつかの正の電荷を持つ原子を特定した。 バクテリオ口ドプシン以外に、水チャネルであるアクアポーリン1やグルタチオン異性化酵素の二次元結晶からの電子線回折パターンの解析を行い、共に3.5Å分解能の三次元データを収集することができた。このデータを用いて三次元構造を現在解析中である。しかし、これらのデータは各回折点の強度がバクテリオ口ドプシンより小さいことから、よりいっそうの精度の向上が望まれる。そこで現在、各回折点の強度分布を利用した(profile fitting)強度収集プログラムを作成中である。
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