本年度は、昨年度開発した電子線回折強度を精密に計算できるプログラムを用いて、水のみを選択的に通す水チャンネルであるアクアポーリン1と膜内在型グルタチオン転移酵素の三次元構造の解析を行った。電子線回折パターンの収集とその解析は昨年度に終了していたので、本年度は主に電子顕微鏡像の画像解析を行った。その際に、特にアクアポーリン1の立体構造解析のために、画像解析の手法を改良する必要が生じたので、そのためのプログラム開発を行った。その結果、アクアポーリン1の4.5Å分解能の構造を得ることができた。 アクアポーリンの単分子は、その膜貫通部分に両方の膜表面からループ部分が入り込んできて膜中央で相互作用し、そのC末端側に短いαヘリックスを作っていることが、その構造から明らかになった。この短いαヘリックスとN末端側のループは、水が通ると考えられる通路に通路に面していた。この短いαヘリックスとループにより通路を構成する構造は、バクテリアのポーリンやK^+チャンネルでも観察されており、多くのチャンネルで一般に見られる構造であることが示唆された。 膜内在型グルタチオン転移酵素についても、6Å分解能でその立体構造を解析し、その膜貫通部分は4本のαヘリックスから構成されていることが明らかになった。この三次構造は水溶性のグルタチオン転移酵素とまったく異なっていた。しかし酵素活性等の類似性から、グルタチオンの結合部位の構造やアミノ酸配列は似ていることが予想される。一方、4つの膜貫通部分に対応する配列も、その一次構造の疎水性部分から予想することができるので、これらの情報からグルタチオン結合部位を推定した。
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