ヘモグロビン分子のゾル・ゲル包括を用いた以下の研究を行った。 1. 1960年代半ばに2つのアロステリックモデルが提出された。1つはモノーらによる2状態モデルで、もう一つはコシュランドらによる逐次モデルである。これら2つのモデルは概念的に異なる分子メカニズムを仮定しているが、ヘモグロビン溶液の平均的性質からこれらを区別するのは難しい。今回、両モデルの明確な区別を行うため、透明な多孔性ゲルの細孔中にリガンドが2個結合したヘモグロビン分子(リガンドが2個結合した金属置換混成ヘモグロビン分子)を水と一緒に封じ込め高次構造を固定し、その酸素平衡機能を測定した。その結果、2状熊モデルの予想する酸素親和性の大幅に異なる2つの構造状態の平衡が直接観測で初めて証明された。これは逐次モデルの予想とは完全に矛盾する。 2. フイルム状のゲルに包括したオキシヘモグロビンをdithionite溶液で洗ってやると、dithioniteが拡散で浸透し1〜2分でヘモグロビンは還元され、ゲル中にR構造のデオキシヘモグロビンができる。これが熱力学的に安定なT構造のデオキシヘモグロビンへ構造変化してゆく過程(R-T転移)を速度論的に調べた。数分から数10時間にわたる3つの過程が観測された(一酸化炭素ヘモグロビン溶液の光解離実験でも数ナノ秒から数10マイクロ秒の時間領域に複数の過程が存在することが報告されている)。この結果はゲル中でタンパク質の構造変化の速度が10^<10>倍(100億倍)程度遅くなることを示している。
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