我々はCandida酵母においてCUGコドンがセリンとロイシンの二種のアミノ酸を同時に指定していることを、tRNAの解析と遺伝学的な手法により明らかにし、生物は多義的な遺伝暗号を積極的に使用しうることを示した。今回はこの新規な概念をより確実なものとするため、蛋白質レベルでの解析を行った。Candida albicansのWO-1株をSoll博士(Univ. of Iowa)より入手し、分泌型プロテアーゼ(SAP1)をその培養上清から2段階のカラムクロマトグラフィーにより精製した。SAP1の243番目のCUGコドンでコードされたアミノ酸残基を同定するため、AspNプロテアーゼで消化した後、LC/MSを用いたペプチドマッピングを行った。243番目のコドンが、セリンとロイシンに翻訳されることにより分子量1007.5Da(DAFQAELKS)と1033.5Da(DAFQAELKL)の2種類のペプチドが検出されるはずであるが、tRNAの解析からロイシンを含むペプチド(DAFQAELKL)の存在比はセリンのペプチドの1/30以下であることが予想された。その結果、基本的にm/z値1008.5のセリンに由来するペプチドが検出されたが、同時にm/z値1034.6のロイシン由来と思われる極微量なペプチドも検出された。さらにこのペプチドが予想されたものであることを明らかにするために、合成ペプチドとの保持時間の比較と衝突活性化解離(CID)によるフラグメントイオンの解析からm/z値1034.6のイオンはCUGコドンがロイシンに翻訳されたものであることをつきとめた。
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