私が樹立した細胞性粘菌(以下、粘菌という)のオシリン遺伝子破壊株は細胞集合はするが細胞分化ができない。この株はBHQによる処理、あるいはハムスターのオシリン遺伝子を導入することで野性株と同様の表現型を回復することから、当該遺伝子は細胞内カルシウム濃度を調節していると考えられる。 実際に粘菌のオシリンが細胞内カルシウム変動を起こすのかどうかを調べるために、野生株と遺伝子破壊株の細胞内カルシウムのちがいを測定した。測定にはカリフォルニア大学のR.A.Firtel教授の協力を得た。しかしながら、細胞内カルシウムの変動は見られなかった。検出システムの限界以下なのかもしれない。粘菌のオシリン破壊株については現在論文を作成中である。 大腸菌による粘菌のオシリン蛋白の大量生産と精製を試みたが、十分な量の蛋白生産が見られなかった。大腸菌と粘菌ではコドン使用頻度が著しく異なるためと思われる。 私は粘菌のオシリンの大量発現株も樹立した。この株は巨大な多核細胞になるため、細胞分裂に異常があると予想された。細胞同調系を構築し検討したところ、野生株では細胞分裂期に当該遺伝子の発現が抑制されていることが分かった。以上のことから、粘菌のオシリンはM期を阻害する性質を持っているため、その発現が細胞周期に依存して制御されていることが考えられた。これについても現在論文を作成中である。 粘菌のオシリンは細胞周期による発現調節と細胞分化による発現調節を受けていることがわかった。発現調節機構を明らかにするために遺伝子発現調節領域(約1400塩基)をゲノムからクローニングし塩基配列を決定した。現在、この領域の変異体を構築し遺伝子発現の変動を解析している。
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