研究概要 |
本研究では空間的相互作用に関する情報が蓄積している大腸菌の転写装置(RNAP)とその代表的な転写制御因子CRPをモデル系として、転写開始反応とCRPによる転写活性化機構について解析を行った。 私はCRPの作用点が共通して転写開始複合体形成の促進であることを証明してきた。その過程でmalTプロモーターにおいてCRP非依存に不活型転写複合体が形成されることを見出した。近年、プロモーター上流のA/Tに富む配列(UPエレメント)が第三のシス因子として転写活性を上昇させることがrRNA等の強いプロモーターにおいて報告されている。malTプロモーターは-35領域から9bp離れた位置にA/Tに富む配列をもつ。このA/Tに富む配列の転写開始複合体形成への影響を解析した結果、この領域がUPとして機能すること及びそのコアプロモーターとの相対位置によって転写複合体の性質に影響することが明かとなった。同様のことは他のコアプロモーター(1acP1)においても観察され、この結論の一般性が示唆される。この不活型転写複合体は転写開始点付近のDNA2本鎖は開裂するものの伸長反応に移行できない新規の転写複合体であった。 現在、CRPによる転写活性化に対するUPエレメントの影響および不活型転写複合体形成の生理的意義について解析を進めており、UPエレメントがCRPの作用に必要であるという結果を得ている。即ち、UPエレメントによってRNAPのDNA結合活性が促進され、CRPがpost-recruitment段階においてRNAPと相互作用することで不活型から活性型転写複合体への変換を促進することが示唆される。本研究において得られたCRP,RNAP,DNA各々の相互作用の関係についての新たな知見がより一般的な転写調節機構の理解に繋がることが期待される。
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