内皮細胞特異的な増殖因子VEGFの受容体KDRと相互作用する因子を探索する過程で、私はVav遺伝子ファミリーの新規のメンバーであるVav3を単離した。 本年度は、Vav3が実際に血管内皮細胞でシグナル伝達に関与するかどうかを検討するため、Vav3を特異的に認識し、Vavを認識しないようなペプチド抗体を作製し、Vav3タンパク質の発現を観察した。その結果p95Vav3はヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)では発現が見られないのに対し、血球系細鉋において広範な発現が認められ、Vav3は内皮細胞よりもむしろ血球系細胞において、Vavと同様に抗原受容体の下流のシグナル伝達などに関与するのではないかと考えられた。Vav3遺伝子はp95をコードする6kbのmRNAの他に、SH3-SH2-SH3のドメイン構造からなるp29をコードしうるような3kbのmRNAにも転写される。3kbのmRNAの発現は6kbのmRNAを発現しない多くの組織、細胞系(胎盤、Hela細胞など)に見られるが、こうした細胞系においてp29ポリペプチドの発現は観察されず、どのような発現制御が行われているのか、現在検討中である。 一方vav3遺伝子が他のvav遺伝子ファミリーとどのような生理的機能の差異をもつかを調べるため、マウスvav3のcDNAを単離してその発現を解析した。マウスにおいてもvav3は6kbと3kbの2種のmRNAが観察されたが、6kbのmRNAの発現パターンはヒトとは異なっていた。またマウスの胚においてもこれらのmRNAの発現が観察され、Vav3が発生の過程においてもなんらかの役割を持つことが推測された。
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