RECK遺伝子はras癌遺伝子でトランスフォームした細胞の形質を正常形質に復帰させる活性を指標として発現クローニング法により単離された遺伝子である。RECK遺伝子はほとんどすべての正常組織で発現しているが、癌細胞や種々の癌遺伝子でトランスフォームした細胞では発現が著しく抑制されている。この遺伝子を転移性の高い細胞(B16やHT1080)で強制発現させると、浸潤・転移能の著明な抑制が起こる。本研究は、野生型及び変異を導入したRECK蛋白質の機能解析、RECK遺伝子プロモーター領域の解析、RECK遺伝子欠損マウスの作製と表現型解析、及び、種々のステージの癌組織の免疫組織学的観察等を行い、RECK遺伝子の生理学的機能及び作用機構、さらには、発がんとがんの悪性化に於ける役割について洞察を加えることを目的として開始され、以下の諸点を明らかにした。 1. RECK遺伝子がコードする蛋白質は分子量約110kDaの膜アンカー糖蛋白質であり、MatrixMetalloprotease(MMP)-9と直接に結合してその分泌を負に制御する。また、MMP-2の中間活性化型から活性化型への転換を阻害する。 2. セリン・プロテアーゼ・インヒビター様領域中に存在するアスパラギン酸の置換は、RECK蛋白質のMMP制御活性を低下させる。 3. マウスRECK遺伝子のプロモーター領域にはSp1/Sp3転写因子が結合する部位が2カ所存在し、そのうちの3'側の部位を介して、RasによるRECK遺伝子の発現制御がなされている。 4. RECK遺伝子へテロ欠損マウスと野生型のマウスの間に、外見上の相違を認めない。 5. ヒトの大腸かんでは、RECKは非浸潤型のみに発現が認められ、浸潤型では認められない。 6. マウス骨では、RECKは骨芽細胞と関節面軟骨細胞に特異的に発現している。
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