クラミドモナスには骨格筋アクチンと約90%のアミノ酸相同性を持つアクチンと、それとは非常に異なる配列を持つNAP(アクチンとの相同性64%)の、二種のアクチン遺伝子が存在する。現在のところ一生物種内に保守的なアクチンと非保守的なNAPが共存している例は他に報告がなく、この二種のアクチンが機能的にどのような役割分担をしているのかは、大変興味深い。本研究ではアクチン遺伝子欠損株ida5を用いて、アクチンとNAPの機能的差異を検討した。 1. 栄養増殖中のクラミドモナス細胞内でのアクチンとNAPの発現様式 アクチン、NAPそれぞれのN末端を特異的に認識する抗体を作成し、栄養増殖中の野生株及びida5の全タンパク質のウエスタンブロットを行った。その結果野生株ではアクチンのみ、ida5ではNAPのみが検出され、通常の野生株でNAPがほとんど発現していないことが明らかになった。ノザンブロットの結果、野生株ではアクチンのmRNA発現量に比べNAPのそれはごく微量であるが、ida5では大量に発現していることがわかり、ウエスタンブロットの結果を支持した。 2. 分裂時、接合時におけるアクチン、NAPの局在 蛍光抗体法による観察では、野生株でアクチンは間期の細胞中心付近の細胞質に、分裂期の分裂溝付近にそれぞれ局在するが、これと同様の局在がida5におけるNAPにみられた。さらに、人為的に接合管を誘導する処理を行ったプラス配偶子では、野生株でアクチンによる接合管形成が見られるのに対し、ida5では接合管が形成されるべき根本にNAPが局在した。一部の野生株配偶子では接合管にNAPが共局在し、アクチンとNAPが接合管内で共重合している可能性が示唆された。
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