本年はhedgehog(hh)シグナル伝達系とEGF/Rasシグナル伝達系の突然変異体を用いて、COP細胞の運命決定にこれらシグナル伝達系がどのような役割を果たしているかを解析した。 1. hh完全機能欠失型変異体では、hh遺伝子発現領域内に発生するCOP細胞は正常に発生したが、hh発現領域に接する前列の細胞から発生するCOP細胞は発生しなかった。このことからhhはその発現領域に隣接するCOP細胞の発生を正に制御している。hhシグナル伝達系は、COP細胞のみでなく、体節内のパターン形成全体を制御しているため、hhシグナル伝達系が直接的にCOP細胞の形成を制御している可能性と、COP細胞の発生の場を提供するのに必要である可能性が考えられた。そこでhh温度依存性突然変異体を用いて、COP細胞の形成に必要なhhの発現時期を特定した。この実験から、COP細胞の発生に必要なhhの活性は、COP細胞の発生の少なくとも2時間以上前のものであることが明らかになった。この実験結果と、hh発現領域内のCOP細胞がhh変異体で正常に発生することを考え合わせると、hhシグナル伝達系はCOP細胞の発生の場を提供するために必須であることが考えられた。 2. 腹側化シグナルであるEGFR/Rasシグナル伝達系の変異体の表現型を解析した。この腹側化シグナルの変異体はCOP細胞の背腹軸上のパターン形成に明らかな異常を示さなかった。EGF/Rasシグナル伝達系はCOP細胞の周囲に新たなCOP細胞を誘導するためにも作用しているが、この実験の過程でFGFシグナル伝達系の抑制因子をコードするsprouty(spry)遺伝子がCOP細胞の周囲への新たなCOP細胞の誘導を負に制御していることを見出した。これにより、SPRYがFGFシグナルだけではなくEGFシグナルにも共通の抑制性調節因子であることを明らかにした。
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