脊椎動物の間脳に位置する視床では、多数の神経細胞が「神経核」とよばれる組織構築をとって存在している。これらの神経核は、互いに同じ特性を持つ神経細胞が集合体を形成し、性質の異なる神経細胞で形成される集合体とは分離して存在している。さらに、これらの神経核は、位置特異的な神経繊維の投射が行われる。本研究では、このような視床の各神経核の個性が、どのようなメカニズムによって決定されているかを解き明かすことを目的としている。本年度は、胚操作による実験発生学的手法の適用が容易であるニワトリ胚において、視床の各神経核がどの程度実際的に同定可能であるか、特に、胚操作可能なステージの後、どの程度早期に正確に同定可能であるかについて、まず従来の組織学的手法によって検討を行った。その結果、形態学的に同定するためには、孵化直前まで発生を進める必要があることがわかった。次に、各神経核を特異的に標識する方法の一つとして、BrdUによる細胞標識を行った。ニワトリ胚の場合、哺乳類胚のようなパルスラベルができないため、結果の解釈は容易ではないが、少なくとも哺乳類胚では、細胞周期の解析から発生期の特定の視床神経核が同定できることが報告されている。結果として、細胞を標識しうる最低濃度のBrdUを投与した場合でも、おそらく循環器系の問題により、視床神経核を形態的に同定しうる段階まで発生することはなかった。以上の結果を踏まえ、1)視床神経核を識別する分子マーカーの探索、2)BrdU法に変わる細胞周期の解析方法の開発を現在進めている。また、これらの研究に平行して、視床原基に顕微操作を施した検体を多数蓄積してきており、有効な識別法を開発し次第解析を行う予定である。
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