テレンセファリン(TLN)は細胞外領域に9個のイムノグロブリン様ドメインを持つIgスーパーファミリーの接着分子でその発現領域は、脳の最も吻側セグメントでありかつ、記憶学習といった高次機能を担当する終脳セグメントに限局される。またその発現時期は胎生期で低く、生後すぐに劇的に増加する。この時期は終脳における樹状突起の伸長およびシナプス形成の時期と一致する。これらのことより TLNは、終脳部という空間情報をに与えるアドレス分子であり、その成体における発現の維持からも、終脳における学習や記憶に伴うシナプスの可塑的変動に関わっていることも推測される。そこでのTLNの脳における働きを明らかにするためにTLN遺伝子のノックアウトマウスの作成およびその解析を平成10年度から始めた。 現在までにES細胞(TT2株)由来のDNAから、TLNの全コーディング領域と5'上流調節領域を含むゲノミッククローンを単離し、制限酵素地図の作成とエクソン/イントロンの位置の決定を行いそれらに基ずいて薬剤耐性遺伝子neomycin耐性遺伝子を組み込んだターゲッテイングベクターを作成した。さらに作成したターゲッテイングベクターをES細胞にエレクトロポレーションにより導入し、相同組み替えを起こしたmutant ES細胞を上記の薬剤による選択培養で濃縮単離した。その結果9つの独立した相同組み換え体ES細胞を獲得した。これらを正常マウスの8細胞胚に注入し、偽妊娠させた仮親へ戻しキメラマウスの作成を行ったところ毛色から100%と判断されるキメラマウスを4匹得ることができた。さらにこれらのキメラマウスと正常態マウスと交配させ、ヘテロマウスを6匹(雄4匹、雌2匹)得ることができた。現在そのヘテロマウス同士を交配させ、ホモマウス(ノックアウトマウス)の作成を行っている。
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