脳内において特異的な蛋白質代謝機構が存在することは、アルツハイマー病(AD)だけでなく、プリオン病、ポリグルタミン病などの研究から明らかになっている。なぜなら、これらの疾病の原因蛋白質は、広く全身に発現していながら、分解されずに病的に蓄積するのは脳・神経系に限られており、脳内における蛋白質代謝機構の失調が、これらの疾病の一因になっていると考えられるからである。一方、ADにおいて老人斑の主成分であるアミロイドβ蛋白質は、加齢と共にD-アスパラギン酸(D-Asp)を含むタイプが蓄積することが明らかになり、病態との関連が指摘されてきた。しかし一方で、AD患者の脳では、遊離のD-Aspは健常脳に比較し、減少していることも報告されている。従って、研究代表者は、D-Aspを含むペプチドを分解する酵素、即ち、D-aspartyl endopeptidase(以下DAEP)の存在を仮定し、ウサギ肝臓からDAEPの精製を行った。その結果、今年度になってミトコンドリア膜画分から、DAEPの精製に成功し、精製したDAEPを用いてその酵素的性質を調査した。DAEPは、脳、肝臓、腎臓などで比活性が高く、D-Asp含有蛋白質にのみ特異性を示すことが明らかになった。さらにDAEPは、分子シャペロンの一種、glucose regulated protein78(GRP78)と相互作用することも確認している。特に興味深いのは、DAEPの分子量が70万であることと、ラクタシチスンによってその活性が阻害されることである。これらの性質は、20Sプロテアソームと一致するものであるが、細胞内の局在が異なることや、基質特異性の違いなど、性質上の相違点も多い。従って、一次構造を比較するため、現在、二次元電気泳動によるDAEP構成成分の分離と、その一次配列の決定に取り組んでいる。
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