これまでの解析で、発生の特定段階にあるラット脳よりそれぞれMAP1Bを精製し、部位の判明したリン酸化アミノ酸のリン酸化状態を比較したところ、胎生18日頃から生後1週齢位の間に特異的な脱リン酸化を受けているアミノ酸が2ヶ所存在することが判明している。この時期は大脳皮質ではシナプス形成が盛んであり、両者の関連に興味が持たれたため、平成10年度はまず、この部位のリン酸化状態を特異的に認識する抗体の作製を試みた。この部位に相当するリン酸化状態のペプチドを抗原として、ウサギに免役し、抗原ペプチドと反応する抗血清が得られた。今後はこの抗血清が、MAP1B蛋白質全体と反応するかどうかをチェックし、リン酸化/非リン酸化両ペプチドを用いて、リン酸化状態のみを認識するものを精製する必要があるが、これは次年度以降に持ち越しとなった。次にエクトプロテインキナーゼによるMAP1Bのリン酸化機構が、大脳皮質以外の他の領域でのシナプス形成にも関与しているかどうかを検討するため、MAP1Bが多量に発現している部位とされる、嗅球で検討することとした。嗅球は構造が明快だが、初代培養系での報告は非常に少ないため、今年度は初めに培養系の確立を目指した。胎生18日齢のラット胎仔から嗅球を切り出し、大脳皮質細胞と同様の手法で培養したところ、MAP2陽性の多数のニューロンの存在が長期にわたって維持されることが認められた。また大脳皮質度同様、機能的なシナプスの形成を示す、複数のニューロン間で同期して生じる自発的な細胞内Ca^<2+>の振動現象も確認され、抗シナプトフィジン抗体による染色でも、ニューロンの周りにシナプスと思われる、ドット状の構造が確認された。シナプスが形成されていることは電子顕微鏡による観察で、確認された。MAP1Bによるシナプス形成機構の制御の検討に際し、嗅球はMAP1Bを多量に発現しており、成熟して後もシナプスの再構成を含む可塑性が維持され続けていること、比較的単純な構造で扱いやすいことなどから、今後は嗅球も含めて検討していく予定である。
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