本研究の目的は、家族性アルツハイマー病(FAD)の原因遺伝子であるプレセニリン1(PS1)の遺伝子変異がどのようなメカニズムで選択的神経細胞死を引き起こすかを解明することである。 本年度は、in vitroの系で証明されてきたPS1変異とβアミロイド(Aβ)42分子種産生増加の現象が生体内でも起こっていることをPS1に変異を持つ脳組織中のアミロイド分子種を定量し、統計的な解析を行うことによって直接的に証明した。しかしながら、現時点ではAβ42分子種が選択的神経細胞死を誘発するのか、PS1変異が選択的神経細胞死を誘導した結果Aβ42分子種産生増加がおこっているのか明らかになっていない。そこで現在、本研究の実験計画に沿って、脳組織あるいは変異型PS1を誘導する培養細胞系を用いて、Aβ42分子種分泌との直接的な関係を蛋白質レベルで解析すると共に、変異型PS1に起因するアポトーシス関連蛋白質の発現制御機構を、本大学共同研究設備を用いて定量RT-PCR法に基づいて解析を行っている。 また、変異型PS1遺伝子導入細胞株をいくつか作成済みであり、本研究室の備品であるレーザー顕微鏡を用いた形態観察も行っている。 本研究課題を進めていく上で、PS1遺伝子の基礎的な解析は非常に有用な情報を与えてくれる。研究代表者自身、本年度ウシプレセニリン遺伝子のクローニングについて学会発表(日本神経化学会、米国神経科学会)を行った。プレセニリンのアミノ酸配列の系統発生学的な解析を行い、予測されうる機能領域について興味深い知見が得られた。これらの研究成果は、本研究課題の方向性を見極める上で非常に参考になった。 今後はPS1蛋白質の神経細胞死への作用点に焦点をあてて研究を進めていく予定である。
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