運動ニューロンに発現するニューロトロフィンの一種であるneurotrophin-3が、筋求心性線維の運動ニューロンへの軸索分枝形成、シナプス終末形成あるいはシナプスの維持に関与する可能性について、平成10年度は以下の研究を行った。 新生仔マウスの胸髄の外肋間筋あるいは内肋間筋を支配する運動ニューロンへの末梢シナプス入力のパターンを解析するために、以下の実験系の開発と対照実験を行った。FITCで蛍光標識されたコレラ毒素サブユニット(FITC-CTB)を生後0日のマウス肋間筋に微量注入し、肋間筋運動ニューロンを逆行性に標識する。術後1-2日後の新生仔マウスから、半切脊髄摘出標本を作製し、Krebs液の灌流下でその生体機能を維持する。正立顕微鏡を用い、蛍光観察によりFITC-CTBで標識された肋間筋運動ニューロンを同定し、さらに赤外微分干渉法により直視下で肋間筋運動ニューロンからホールセル・パッチクランプ法による記録を行う。同名筋と拮抗筋に由来する一次求心性線維刺激により誘発される運動ニューロンの膜電位/電流変化の振幅、時間経過を観察し、シナプス入力の空間パタンとシナプス強度(応答特性)を解析する。 本研究で対象としている胸髄中央部では、肋間筋群を支配する一次求心性線維と運動ニューロンが、ほぼ同一横断平面上に配置する。この同一構造は、胸髄中央部のおよそ10脊髄節に渡り存在する。蛍光二重染色による形態学的解析により、新生マウスの肋間筋求心性線維の側枝は少なくとも吻尾側合計3脊髄節に渡って隣接脊髄節の運動神経核まで投射していることを明らかにした。ある胸髄脊髄節から出た末梢神経の切断が、正常な隣接脊髄節に由来する一次求心性線維から標的運動ニューロンへの投射支配にどのような影響を与えるかについても解析を進める。
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