運動ニューロンに発現するニューロトロフィンの一種であるneurotrophin-3が、筋求心性線維の運動ニューロンへのシナプス終末形成あるいはシナプスの維持に関与する可能性について、平成11年度は以下の研究を行った。 1)胸髄の肋間筋を支配する運動ニューロンあるいは下肢筋群を支配する運動ニューロンへのシナプス入力を解析するため、生後0日から生後7日の新生仔マウスの半切脊髄摘出標本を作製し、Krebs液の灌流下でその生体機能を維持した。胸髄あるいは腰髄の前根にガラス管吸引電極を装着し、運動ニューロンの膜電位変化の集合を細胞外記録した。記録部位と同節の脊髄後根の電気刺激あるいは神経伝達物質受容体作動薬の灌流投与により、運動ニューロンの活動(前根電位)を誘発した。刺激強度または投与物質の濃度に依存した前根電位が記録された。 2)新生期の末梢神経切断は、それを支配する運動ニューロンに細胞死を誘導することが知られている。細胞死に至る過程の運動ニューロン膜特性の変化とそれに対するニューロトロフィンの効果を明らかにするため、肋間神経あるいは坐骨神経を生後0日に切断し、軸索切断後の運動ニューロンの変化を解析した。胸髄と腰髄の両部位において、術後7日までに多数の運動ニューロンが死滅することを形態学的解析により確認した。灌流投与したグリシンやγ-アミノ酪酸に対する坐骨神経運動ニューロンの応答(前根電位)は、坐骨神経切断の術後日数に関らず、手術群と対照群の間で明らかな違いは認められなかった。 3)赤外微分干渉法を用い直視下で単一運動ニューロンからホールセル・パッチクランプによる記録法を確立し、運動ニューロンへのシナプス入力の空間パタンやシナプス強度の定量的解析を展開する。ニューロトロフィンが、正常発生過程や神経損傷後の運動ニューロンのシナプス機能に果たす役割を明らかにする。
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