大脳聴覚野のスライス標本を作製し、長期増強(long-term potentiation;LTP)の誘導における、一酸化窒素(nitric oxide;NO)の役割について解析を行なった。皮質第IV層のテタヌス刺激によって、皮質第II-III層および第V層においてフィールドLTPを誘発した。テタヌス刺激後の第II-III層および第V層のLTPの大きさは、刺激前のそれぞれ、171%および138%であった。第II-III層のLTPは、NO合成酵素(NOS)の阻害剤の適用によって影響を受けなかったが、第V層のLTPは有意に抑制され、この抑制はNO供与体あるいはcGMPアナログの適用によって拮抗的に阻害された。抗神経型NOS抗体を用いた大脳聴覚野における免疫染色によって、小型の非錐体性のニューロンが染まり、これらの細胞は皮質深部に数多く存在していた。NO検出電極を用いて、皮質第IV層を刺激することによって放出されるNOの濃度を測定した結果、第V層で放出されるNOの濃度は、第II-III層のそれの約7倍多かった。第V層におけるNOの放出は、non-NMDAあるいはNMDAレセプターの拮抗剤によって部分的に阻害されたが、両者の同時適用によってほぼ完全に阻害された。これら一連の結果から、ラットの大脳聴覚野の皮質第V層において生ずるLTPにはNO依存性があることおよび、皮質深部においてより多くのNOが放出されることが明らかとなった。
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