本年度は複数の健常なサルを使用して個体同一性認知に基づく遅延見本合わせ課題(1-DMS課題)における行動反応(行動反応潜時および課題正答率)の解析を行った。また、脳定位固定装置ならびに微小電極法を使用し、嗅皮質を含む側頭葉前内側部からの単一ニューロン活動記録を開始した。 I-DMS課題ではサルが固視点に固視した後、見本刺激が呈示され一定の遅延期間の後、テスト刺激が呈示される。これらの刺激はサルにとって既知または新奇な複数の人物の顔を7方向から撮影したデジタル画像であり、それぞれ既知または新奇視覚刺激とする。サルは同一個体の画像が呈示された場合、レバー押しを行うと、正解としてジュースが報酬として与えられる。(画像の物理的性状が異なっても画像の個体が同一であれば正解。)正解となるテスト刺激が呈示されるまで種々の妨害刺激が呈示される。 I-DMS課題における行動反応の解析から、既知視覚刺激では行動反応潜時は新奇視覚刺激に比ベ有意に短縮した。新奇視覚刺激では課題正答率は著名に低下した。行動反応潜時は使用される顔の違いにも依存して変化した。さらに、行動反応潜時は見本刺激とテスト刺激の間の回転角に比例して増加し、人間と同様な心的回転効果がサルでも確認された。 一方、I-DMS課題遂行中に記録された嗅皮質を含む側頭葉前内側部ニューロンのニューロン反応には種々の型が見られた。見本刺激と正解テスト刺激に対するニューロン応答を比較した場合、どちらかに有意に強く反応するニューロンが存在した。また、全ての顔に対して同様に反応するニューロン、比較的緩やかな刺激選択性を示すニューロン、特定の顔だけに鋭い刺激選択性を示すニューロンが存在した。さらに既知視覚刺激と新奇視覚刺激に対するニューロン反応に有意な差があるニューロンも存在した。これらのニューロン反応とI-DMS課題における行動反応との相関を現在解析中である。
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