今回東京薬大の工藤佳久教授らによって新規に開発された、カルシニューリン蛍光指示薬P-ABIIを用いて、シナプス入力による視覚野II/III層錐体細胞内のカルシニューリン活性化を可視化することにした。幼若ラット視覚野からスライス標本を作成し、パッチ電極からP-ARIIをII/III層錐体細胞内に負荷した。IV層に刺激電極をおいて、カルシニューリンが関与するとされる、長期抑圧を誘発する刺激(1Hz15分)を与えた。コントロールの実験では、4割の細胞で蛍光の上昇が見られたが、その大きさは細胞全体で均等か、あるいは細胞体優位の分布を示した。かつ刺激を開始してから反応が始まるまで、数分の潜時が認められた。細胞内にカルシニューリン阻害剤FK506約40μMを負荷しておくとこの蛍光上昇は観察されないことから、カルシニューリン活性に依存した変化であること考えられる。しかし、P-ARIIはPKAによって蛍光減少することがわかっているので次にPKAの阻害剤であるH89(1μM)を細胞内に負荷して同じ刺激を行ったところ、蛍光の変化は認められなかった。 これは、刺激を与えない静止状態においてもH89によってP-ARIIが脱リン酸化されて、蛍光上昇が飽和している可能性が考えられた。そこでH89を同じく1μM細胞外から負荷して、かつ静止状態のカルシニューリンの活性を抑制するため細胞内にIC50の濃度に相当する30nMFK506を負荷しておいて同じ刺激を与えた。すると約半数の細胞でコントロールの条件と同じく数分の潜時を持つ、蛍光の上昇が観察された。低頻度刺激によるカルシニューリン活性化に数分の時間が要するという実験結果は、長期抑圧を起こすために比較的長期の刺激が必要である事実を説明するものであると思われる。
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