研究概要 |
シナプス伝達の長期抑圧は、大脳皮質や海馬の入力依存的神経回路形成のメカニズムの一つであると考えられている。長期抑圧の誘発には、シナプス入力によって増加したカルシウムが蛋白脱リン酸化酵素・カルシニューリンを活性化することがが必要であることが示唆されている。最近東京薬大の工藤らによって開発された蛍光カルシニューリン指示薬P-ARIIを用いて長期抑圧誘発中のカルシニューリン活性を可視化することにした。大脳皮質視覚野スライス標本のII/III層錐体細胞にパッチ電極からP-ARIIを負荷し、IV層に刺激電極から低頻度刺激(1Hz15分)を与えた。約半数の細胞において、低頻度刺激中に細胞全体に蛍光上昇が観察された。、また少数の細胞で尖頭樹状突起の局所に強い蛍光上昇を観察したが、これはシナプス後部でシナプス入力によって直接カルシニューリンの活性化が起こった可能性がある。もう一つの特徴として、刺激を開始してから蛍光が上昇するまで、平均数分の潜時があることである。つぎにこの蛍光上昇がカルシニューリン活性上昇に依存したものであるかを確認するために、細胞にカルシニューリン阻害剤を負荷して蛍光変化を観察した。FK506,カルシニューリン自己阻害ペプチドを負荷した細胞では、蛍光上昇が見られなかったので、PARIIの蛍光上昇はカルシニューリンの活性を反映したものであることが示唆された。また長期増強を誘発するシータバースト刺激では、平均して有意な蛍光上昇は観察されなかった。カルシニューリンの活性化にはシータバースト刺激のような強くて短い刺激より、低頻度刺激のような弱くても長期にわたる刺激の方が有効であることがわかった。さらに、長期抑圧を誘発するのに長期にわたる刺激が必要な理由の一つとして、カルシニューリンが十分に活性化するのに時間がかかる可能性が示唆された。
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