前年度に引き続いて、大脳皮質フィールド電位の慢性記録により、前頭葉皮質及び小脳の運動学習における役割を検索した。麻酔下で、サルの前頭前野、運動前野、運動野等の種々の大脳皮質領野の皮質表面と、表面より2.0〜3.0mmの皮質深部に慢性記録電極を設置した。サルの回復後、聴覚刺激(サルの"coo"call)に応じて迅速、的確に発声(聴覚始動性発声)するよう訓練した。この時、運動野の顔面領野には表面陰性-深部陽性電位が刺激後約200msec、発声前約700msecの潜時で記録された。また、片側の小脳外側核・中位核破壊により対側運動野の電位が消失することから、手の反応時間運動の場合と同様、この電位は小脳由来と考えられた。しかし、手の場合と異なり反応時間の延長は認められなかった。この電位の運動学習との関連を調べるために、長期に亙って記録をし、その変化を観察した。振幅、持続時間等は、学習初期より過学習期に至るまで大きな変化は認められなかった。また、反応時間も平均0.9sec程度でこれ以上短縮することはなかった。これは、手を用いた反応時間運動の場合、運動が熟練するに従って振幅は増大し、持続時間は短縮し、反応時間も約0.3secまで短縮するのと、好対照をなしていた。以上より、発声運動では手の運動と違って、小脳からの入力による熟練学習が、必ずしも行われないことが示唆された。これらの結果は、発声運動と手の運動では、運動学習における小脳の役割が異なることを示している。
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