研究概要 |
本研究では,音楽家の脳内での音楽の認知機構を,脳磁界信号の記録・解析を通じて明らかにすることを目標とした。 刺激音は,3つのピアノ音,包絡線をピアノ音に似せた純音とノイズバースト(NB)の5つを用い,片耳に呈示した。被験者は大学で楽器を専攻し絶対音感を持つ学生11名(AP)群と,特別な音楽訓練を受けたことのない大学生11名(non-AP)群であり,全員右利きの女性であった。側頭部からSQUID磁束計を用いて聴覚誘発脳磁界を記録し,刺激音別に加算平均した。単一の電流双極子(ECD)を仮定したモデルを用いてNlmの脳内信号源推定を行った。 その結果,ECD位置は,AP群では左側頭のECDが右側頭に対して平均で約6mm後方に位置した。各刺激音に対するECDの位置を比べると,AP群でNBは他の音に比べ約4mm後方ヘシフトしていた(p<0.0001)。一方non-APでは4つのECDの位置は統計的に分離されなかった。APは全員幼少期から音楽訓練を受けており,現在もハードな練習を積んでいる。結果として脳内にNBのような聴取音中の高周波成分や急激な時間的変化に対する非常に高い感受性が生じたとの解釈が可能である。Mとnon-APの群間でECD位置を比較すると,右半球でECDは非常に近接していて統計的に差はなかった。一方,左半球ではDのECDはnon-APに対して6mm後方に位置した(p<0.005)。これは音楽家の脳の左側頭平面が解剖学的に見て後方に発達していること示したMRIの研究報告と合致している。すなわち,これまで知られていた解剖学的な非対称性にくわえて,本研究により絶対音感を持つ音楽家の脳活動に機能的な位置の非対称性があることが明らかとなった。
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