研究概要 |
動脈硬化症の局在的発症のメカニズムを明らかにするために,血管壁のリポ蛋白(コレステロールの担体)の取り込み量におよぼす流れ(せん断応力・せん断速度)および壁透過性の影響を培養内皮細胞単層と蛍光ポリスチレン微粒子をそれぞれのモデルとして用いて調べた.その結果,内皮細胞単層に水透過性を与えない場合は,実験を開始してから,30分あるいは2時間の間に内皮細胞に取り込まれた微粒子量は,流れを負荷した場合の方が負荷しない場合に比べて有意に多かったが,24時間流れを負荷した細胞の2時間の間に取り込んだ微粒子量は,流れを負荷しない場合の取り込み量とほぼ同じであった.また,細胞に取り込まれた微粒子は,細胞内,つまり細胞の小胞内に取り込まれていたことが観察された.これらの結果から,せん断応力の変化により,細胞の小胞輸送能が増加することが分かった.一方,内皮細胞単層に透過性を与え,その水透過速度を生理的範囲の値に保った場合は,流れを負荷しない場合の方が,流れを負荷した場合に比べ,取り込む微粒子の量が多いことがわかった.これは内皮細胞表面上において巨大分子の流速依存性濃縮現象が起こっていることによるものであると考えられた.また,本実験の結果,せん断応力の変化による細胞内小胞輸送能の増加よりも,この濃縮現象による内皮細胞表面近傍の濃度変化の方が内皮細胞の物質取り込みに大きく影響することがわかった.これらの結果から,動脈硬化症の局在化にリポ蛋白の流速依存性濃縮現象が深く関わっていることが示唆された.ラットを用いて動脈壁に蛍光微粒子を取り込ませる実験は,血管壁自体の蛍光が強く,定性的に取込量を測定できなかった.次年度において,取り込ませる物質を換え,再度試みる予定である.
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