放射性同位元素(RI)で標識された物質を被験者に投与し、これら物質の代謝量を調べる動態機能計測は、生体の疾患などの発見に役立つとされている。このために、従来は3次元Positron EmissionTomography(PET)装置を用いて得られた投影データから時間フレームごとの核種分布画像を再構成し、最小二乗法等を用いて代謝量を表す画像を推定しているが、データ量が膨大なため、再構成に非常に大きな計算時間を要する。しかし、代謝機能診断には核種分布画像を必要とされないことから、本年度は、核種分布画像を求めずに観測データから直接代謝量画像を推定する高速な推定手法を開発することを目的とした。 PET装置により得られる観測データには、推定すべき代謝量をあらわすパラメータの情報及び血液中RI濃度の情報の2つが含まれている。提案手法では、まず各時間各時間フレームの画像における観測測データの差分を計算し、血中RI濃度の情報を取り除く。次にこのデータを2つの異なる時間間隔において積分し、得られたデータに対して再構成アルゴリズムを適用することで2枚の画像を得る。最後にそれらの2枚の画像及び時間間隔の情報から、代謝量画像を推定する。従来法が各時間フレームごとに再構成を行うのに対し、本手法では、再構成に相当する計算が時間フレーム数によらず2回に減少するため高速な代謝量画像推定が可能になる。また、従来法では各時間フレームの画像のSN比が異なることを考慮していないため、推定結果が統計ノイズの影響を強く受けるのに対し、本手法では、時間積分の時間間隔を選択することで、SN比の等しい画像から推定を行うことが可能であるため、統計ノイズの抑制も期待できる。 本手法の有効性を確認するために計算機シミュレーションを行った。計算機シミュレーションでは、観測時間を10分間、そのうち体内へのRI注入時間を最初の2分30秒間とし、30秒ごとに積算された観測データを得た。また、観測データは2 Mtotal countと20M total countの場合を想定した。計算機シミュレーション画質を落とすことなく計算時間が10分の1以下になることを確認し、本手法の有効性を示した。 更に、トレーサーとしてフルマゼニールを用い、脳血管障害患者を検査した臨床データに関して実験を行った。データの時間サンプリング数は20点である。実験結果から画質を落とすことなく計算時間が約10分の1以下になることを確認し、本手法の有効性を示した。
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