研究概要 |
本研究は,心臓の不整脈の生成・制御のメカニズムを力学系の視点から明らかにし,不整脈を動的に制御する方法論を研究することことを目的としている.この目的を達成するために,この年度は,空間的に1次元的な広がりをもつ興奮性ケーブルモデル上の活動電位伝導の基本的な性質をしらべた.具体的には,有限長のケーブルの一端を周期的に電気刺激することで周期的に興奮を発生させその興奮の時空間伝導パターンを調べた. まず,興奮伝導の伝導パターンは,刺激の周期に依存して,n:m同期応答,非周期応答を含み,複雑に変化することをモデルの振舞いを計算機でシミュレートすることで示した.ここでn:m同期応答とは,n回の刺激に対してm(<n)個の活動電位が伝導するのを1サイクルとして,このサイクルが繰り返す状況である.周期刺激によって発生する興奮を心臓洞結節の活動と見なせば,n:m位相同期応答は,いわゆるウェンケバッハリズムとして知られる不整脈に対応すると考えられる. 次に,上記の様々な振舞いを力学系理論の立場から明らかにするために,系のポアンカレ写像を1次元離散力学系で近似することを試みた.ここで,ポアンカレ写像とは,周期信号に駆動される非線形力学系のダイナミクスを解析する際に,一般的に用いられる手法である.解析の結果,シミュレーションで得られた様々な振舞いは,1次元離散力学系で精度良く再現できることを示した.また,刺激の周期に依存したモデルの振舞いの定性的な変化が,1次元離散力学系の分岐現象であることを示した.以上の結果は,現在学術論文誌に投稿中である.
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