日本語を母語とせず、それを流暢に使用することができない子どもの場合、日本語を母語とする指導者との言語的相互行為や他児との言語的相互行為において、発話内容やターンの主導権などの談話形式に非対称性が見られることがわかっている。教育場面で、こうした言語的多数者と言語的少数者との間の談話において権力関係の非対称性が見られることはよく知られていることであるが、それは両者を含む集団の質によって異なるものであろうか。特に、年齢・学齢といった発達上の言語習得への期待によってそれは異なるものであろうか。本年度ではこの点を検討するために、第一言語獲得途上にあり、親の母語が非日本語の子どもとその子どもの所属保育集団との言語的相互行為について検討した。 調査方法は参与観察である。観察フィールドは、日本語非母語児が含まれるクラス集団である。対象集団は、第一(生活)言語習得前期(乳児から幼児への移行期)を中心に行い、第一言語がある程度よどみなく使えるようになっている第一(生活)言語習得期(就学前施設年長時期)のクラスについて一部観察データを収集した。二歳児クラスを中心に観察したが、言語の出る時期が観察後半に集中していたため、現在もこのクラスについて集中的に調査を継続中である。観察者は児童の登所時間から保育場面に参与し、その様子をフィールドノーツに記録した。主要な観察場面は、子供達の自由遊び場面と保母に指導された集団保育場面である。日本語非母語児に焦点を絞り、その子と他の子・保育者等の関わる場面を記録することにした。また、適宜ビデオカメラを設置し、そのやりとりを記録した。ビデオカメラに記録された映像は、フィールドノーツに基づいて、コンピュータ上で相互行為の含まれるイベント毎に抽出・編集され、二次資料として保存された。二次資料として保存された音声・映像記録は研究補助員によってトランスクリプトとして言語表記された。なお、成果の一部は今年度の発達心理学会で報告される予定である。
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