教育場面で、言語的多数者と言語的少数者との間の談話において権力関係の非対称性が見られることはよく知られていることであるが、それは両者を含む集団の質によって異なるものであろうか。特に、年齢・学齢といった発達上の言語習得への期待によってそれは異なるものであろうか。本研究ではこの点を検討するために、保育・教育場面において、日本語非母語児を含んだ異なる年齢集団の談話を観察し、両者の非対称性がどのような状況でどのような形で生成されるものであるのかそのテクストとコンテクストを明らかにすることを目指している。このために、日本語非母語児が在籍する保育園、日本語非母語児が在籍する小学校、日本語非母語者が在籍する大学において、それぞれ参与観察を中心としたフィールド・リサーチを行った。しかし、この内、小学校では平成12年度より観察焦点児としていた子ども達が年度当初に急遽転校してしまったため、継続調査を断念せざる得なかった。来年度は、平成11年度調査の補足調査として担当教員に対する面接、他校での部分的な関連事項に対する補足調査を予定している。また、保育園では平成11年度、12年度と焦点児として観察していた子どもが転園してしまったため、別の子どもを焦点児として観察を継続した。しかし、この子も親の母語が日本語ではない言語環境にあること、母親が妊娠出産したことにより、園を休みがちであったこと、さらに在籍クラスにおいて最も年齢が低いことなどにより、日本語で他の子どもや保育者と他の子のようにやりとりするまでには至っていない。従って、来年度もこの子の在籍する保育クラスに関しては継続調査を予定している。大学での調査は留学生センターの日本語初学者に対する授業場面に対して行われた。三ヶ月間の集中日本語コースの授業を約二週に一度の割合で参与観察し、ビデオに記録した。 リサーチに並行して、文献調査などを行い、関連資料を収集した。また、部分的に分析も行っている。これらの研究の途中経過は社会文化的研究国際会議(2000年7月 ブラジル・キャンピーナス・ユニキャンプ)、日本教育心理学会(2000年9月 東京大学教養学部)において報告された。
|