研究概要 |
日本語を母語とせず、それを流暢に使用することができない子どもの場合、日本語を母語とする指導者や他児との言語的相互行為において、発話内容やターンの主導権などの談話形式に非対称性が見られることがわかっている。こうした教育・保育場面に見られる非対称性はその集団の質によって異なるものであろうか。このことを明らかにするために、保育園、小学校、大学といった異なる集団の三つのフイールドで参与観察を行い、ビデオによる微視的分析を実施した。その結果、次のことが明らかにされた。1)1,2歳児クラスのこども達の保育集団では、日本語非母語児もその母語の相違によって目立つことはない。それは保育者による集団の組織化において言語の身体-運動成分が主要な役割を果たしていたからである。2)小学校の日系ブラジル人児童に対する「取り出し授業」では、指導者らが様々な手段を使って、子供達の「自主的発話」を引き出していることが明らかにされた。3)成人留学生に対する大学における第二言語としての日本語クラスの授業では、その言語学習のあり方は、集団教授学習であるという点に大きく関与していることが明らかにされた。以上のことから談話に見られる母語話者と非母語学習者との間の非対称性は指導者の談話の組織化のあり方に強く依存していることが示唆された。
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