<社会のディスクール分析>に談話分析がもたらす理論と方法に関する本研究は、談話分析とディスクール分析との二つの研究の系譜の境界に問題領域を設定し、<社会のディクール分析>の新たな理論的・方法的可能性を拓く試みである。とくに、<話し言葉>と<書き言葉>との区別を相対化しつつある、ハイパー・メディアを含む<メディア・テクスト>を研究対象に選ぶことで、言語活動の社会性・制度性と、言語・記号活動に働く認知意味論的基礎との関係を解明することを目指してきた。平成10年度は、研究基礎環境として設備およびデータ資料の整備を進めるとともに、基礎理論部門においては、とくにディスコースの社会理論の研究において、フランス国立図書館のミシェル・フーコーの未刊行資料を世界的に初めて解読し社会の言説理論の成立についての新しい視点を解明、その成果はパリ第8大学において行われた「ディスクール性」についての共同研究シンポジウムにおいて発表された。さらに、談話分析との接合については、社会的な役割にともなう会話態の変化の研究を行い、その成果は「言語態」についての理論化の作業に取り入れられ、平成12年度に刊行が開始される「シリーズ言語態」(東大出版会)の第一巻「言語態の問い」の論考として刊行されることとなった。方法応用部門においては、おもにテレビを対象にメディアテクストの分析の作業を研究補助者の協力を得て開始し、データベースの作成、分析方法の開発を進め、東京大学大学院総合文化研究科言語情報科学専攻院生の研究協力を得て、テレビ番組の具体的なディスコース分析として結果を生んだ。さらに談話分析による研究は、ミクロな言語活動の緻密な分析にもとづくメディアテクスト分析の方法の試みとして、メディア・リテラシー問題の研究への貢献としても発表された。研究の成果は、また様々な国際シンポジウムでの発表としても公表され、とくに、ディコース分析にもとづ言語制度やメディア表象体系の理解が、文化理論にいかに応用しうるかを、ひろく国際的な共同研究を通して示すことができた。
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