漫才、落語の音声資料を収集して文字化し、これに既存の落語活字資料を加えて、その談話構造を分析した結果、次のような見解を得た。 1.落語は、(1)演者による<素材紹介>行為と(2)演者による場全体の<共感形成>行為とが重層して成立するものであり、(1)と(2)の重層は<下げ>において集約的に見られるのみならず、落語のテクスト全体において見られる。 2.漫才の談話論的構造も基本的にはこれと同じである。笑う対象としての<素材>は、ボケ側の発言内容や、そういう発言をすることによってそこに形成される一つの人間像、また二人の会話の進展そのものによって構成される。それを笑うべきことだとする場の<共感形成>は、ツッコミ側の発言によって実現される。 3.場全体が笑うための<素材>を効率的に構成するために、漫才において長年にわたって練り上げられた会話の運びの型がいくつもあり、その中には(A)通常の日常会話の中にもあり得る運びのタイプと、(B)漫才を代表とするような笑いの話芸の中でしか現れないような運びのタイプとが認められる。 4.大阪方言では、会話を笑いにもちこむための努力と工夫が通常の会話の中でも濃厚に為される傾向が強い。それは(B)タイプの会話が日常化していると言うこともできる。 5.上記(4)のことの根底には笑いを求める大阪人の気質があるが、そのような言語行動上の顕著な傾向の背後には、大阪人の気持ちの動き方、発想様式、美意識にかかわる9個の特徴が指摘できる。
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