研究概要 |
目的:アルツハイマー病(AD)脳では可溶性Aβがβシート構造をとり,アミロイド繊維形成げなされる.血液中での可溶性AβはHDL粒子上のアポリポ蛋白J結合し,単に水溶化された形でなく脂溶化された状態で存在し,その可溶性の維持と血液中からのクリアランスがなされている.リポ蛋白と可溶性Aβの結合隔離はそのclearance障害の結果,血液中でのamyloidogenicな可溶性Aβ分子種の増加,ひいては血液脳開門を介した脳内可溶性Aβの濃度増加をきたし,脳内でのamyloidogenic patway促進に貢献すると考えられる.本研究ではこうした可溶性Aβの異化過程の障害がADのAβアミロイド繊維形成に果たす役割を明らかにするため,実際このamyloidogenicなリポ蛋白フリー可溶性Aβ分子種がどの程度生体内に存在し,生理的また病的な条件下でその質的・量的相違がみられるかどうか検討した. 結果:健常者30歳をくぎりに若年,中年,高年の3群に分け,血液リポ蛋白結合型・非結合型可溶性総Aβを検討すると両者は60歳以降で増加し,この増加は主体はAβ40であった.生理的な条件下では血漿中のAβは90%がリポ蛋白結合型,残り10%がリポ蛋白フリーな状態で存在していた.全血漿中に占めるリポ蛋白フリーなAβ42では健常者では1.8%のところが,ADでは5.9%と3倍以上の有意な上昇を認めた.リポ蛋白フリーなtotalAβ量は健常老年者の1.2倍に対し,リポ蛋白フリーなAβ42の場合は3.6倍と著名であった.ダウン症候群で脳内に老人斑が出現し始める30歳をcritical ageとし,30歳未満と30歳以上で分けた2群と健常対照群間ではリポ蛋白フリーAβ40は約4倍,42では約2.5倍の増加が認められ,全血漿濃度の約2倍増加を有に上回った.この増加に一致して全血漿中に占めるリポ蛋白フリーAβの割合も30歳未満では21.8%、30歳以上でも16.1%と著明な上昇を認めた.この結果はダウン症候群でも可溶性Aβとリポ蛋白の相互作用のバランスの障害が確かに存在し,しかも脳内でcongo-red陽性のfibrillar depositの出現する以前から認められることから,リポ蛋白フリーAβはダウン症候群で認められる早期AD脳病変出現に密接に関わるものとおもわれる. 結論:ADでは可溶性Aβとリポ蛋白の相互作用バランス障害を生じ,リポ蛋白から過量のフリーAβがreleaseされている状態に至り,正常のリポ蛋白に追従したcatabolic pathwayが障害される病態と相まって,フリーAβは様々なchemical modificationを受ける中でconformation変化を起こし,アミロイド細繊維形成に至ると考えられる.
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